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夏草が邪魔をする, 2017.06.28
cover of Yorushika's album 夏草が邪魔をするCD from Yorushika's album 夏草が邪魔をする


負け犬にアンコールはいらない, 2018.5.9
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だから僕は音楽を辞めた, 2019.4.10
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エルマ, 2019.8.28
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盗作, 2020.7.29
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創作, 2021.1.27
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幻燈, 2023.4.5
cover for Yorushika's album 幻燈

第1章:夏の肖像

art for Yorushika's song 夏の肖像 1. 夏の肖像
種田山頭火「草木塔」より三句引用
「うしろすがたのしぐれてゆくか」
「草のそよげば何となく人を待つ」
「あなたを待つてゐる火のよう燃える」

 夏の中に消えていく女性。やがて絵画の中の緑に溶ける。

lyrics  だからもっと踊るように
 ほろりほろり落ちるように
 さよならは花咲くように
 それは夏の木漏れ日のよう

 寂しい雨上がり、花を見つけて
 ぽっかり空いたような貴方の心
 少しだけ歩こうか 風の吹く間に
 草のそよげば何となく誰かを待つ

 忘れるたびに増やすことが悲しいのでしょう

 だからもっと踊るように
 ほろりほろり落ちるように
 さよならは花咲くように
 それは それは
 だからもっと踊るように
 あぁ僕らずっと一つじゃないの
 涙拭けば雨のように
 それは夏の木漏れ日のよう
 木漏れ日のよう

 貴方の中には何があるのかい
 僕の心には何を描くのかい
 少しだけ歩こうか 雨の降る間に
 その後ろ姿もしぐれてゆくか

 忘れることが苦しい、それも正しいのでしょう

 言葉もっと遊ぶように
 ほろりほろり落ちる夕陽
 五月雨が花火のように
 それは それは
 去ればぱっと晴れる陽気
 あなたを待っている、火のように
 燃える雲、茜のように
 それは風のお祭りのよう

 あの日の空を思う胸が苦しいのでしょう

 だからもっと踊るように
 ほろりほろり落ちるように
 さよならは花咲くように
 それは それは
 だからもっと踊るように
 あぁ僕らずっと一つじゃないの
 涙吹けば雨模様に
 それは夏の木漏れ日のよう
 木漏れ日のよう

art for Yorushika's song 都落ち 2. 都落ち
万葉集第2巻116番 但馬皇女
「人言を 繁み言痛み 己が世に 未だ渡らぬ 朝川渡る」

 貴方の頭を都として、そこからいなくなること、忘れられていくこと。都落ち。
 美しい庭園から草舟が出ていく。都から逃れる平家のように舟は去っていく。

lyrics  花咲くや 赤ら引く頬に
 さざなみ寄るは海
 貴方は水際一人微笑むだけ
 今、思い出に僕は都落ち

 鼻歌、綺麗だね
 明日には往くんだぜ
 海猫が鳴いたね
 鳥でも泣くんだね

 心なし乾いたら別れの時間だぜ
 夏風揉まれて貴方に浅い影

 さらり花咲くや あから引く頬に
 さざなみ、夜は海
 貴方は水際一人手を振るだけ
 今、思い出に僕は都落ち

 朝焼け、綺麗だね
 舟はもう発つんだぜ
 海猫が鳴いたね
 貴方も泣くんだね

 人里離れて鳴る音は向かい波
 飛ぶ鳥は遠くへ明日から向こうまで

 水に落ち流れやがて憂き
 貴方に焦がれる舟は海
 惜しみ書く指は思う丈ばかり
 散る思い出は波か都落ち

 都離れて舟進む
 水は流れて時もまた
 僕は貴方の思い出に
 ただの記憶に

 恋ふらくはあから引く頬の
 寄せ消ゆ波の花
 貴方は水際一人微笑むだけ
 今、思い出に僕は

 さらり花咲くや あから引く頬に
 さざなみ、夜は海
 貴方は水際一人手を振るだけ
 今、左様なら 僕は都落ち

art for Yorushika's song ブレーメン 3. ブレーメン
グリム童話「ブレーメンの音楽師」

 現代を生きる人々の行進。実際、死ぬほどのことはこの世には無い。

lyrics  ねぇ考えなくてもいいよ
 口先じゃ分かり合えないの
 この音に今は乗ろうよ
 忘れないでいたいよ
 身体は無彩色 レイドバック
 ただうねる雨音でグルーヴ
 ずっと二人で暮らそうよ
 この夜の隅っこで

 ねぇ不甲斐ない僕らでいいよ
 って誘ったのは君じゃないの
 理屈だけじゃつまらないわ
 まだ時間が惜しいの?
 練り歩く景色を真空パック
 踏み鳴らす足音でグルーヴ
 まるで僕らはブレーメン
 たった二人だけのマーチ

 さぁ息を吸って早く吐いて

 精々歌っていようぜ 笑うかいお前もどうだい
 愛の歌を歌ってんのさ あっはっはっは
 精々楽していこうぜ 死ぬほどのことはこの世に無いぜ
 明日は何しようか 暇ならわかり合おうぜ

 ねぇ考えなくてもいいよ
 踊り始めた君の細胞
 この音に今は乗ろうよ
 乗れなくてもいいよ
 想い出の景色でバックパック
 春風の騒めきでグルーヴ
 もっと二人で歌おうよ
 暇なら愛をしようよ

 さぁ息を吸って声に出して

 精々歌っていようぜ 笑われてるのも仕方がないね
 何もかも間違ってんのさ なぁ、あっはっはっは
 精々楽していこうぜ 馬鹿を装うのも楽じゃないぜ
 同じような歌詞だし三番は飛ばしていいよ

 さぁ息を吸って早く吐いて
 ねぇ心を貸して今日くらいは

 精々歌っていようぜ 違うか
 お前ら皆僕のことを笑ってんのか?なぁ
 精々楽していこうぜ 死ぬほど辛いなら逃げ出そうぜ
 数年経てばきっと一人も覚えてないよ

 ぜえぜえ歌っていようぜ 身体は動く?お前もどうだい
 愛の歌を歌ってんのさ あっはっはっは
 精々楽していこうぜ 死ぬほどのことはこの世に無いぜ
 明日は何しようか 暇なら笑い合おうぜ
 そのうちわかり合おうぜ

art for Yorushika's song チノカテ 4. チノカテ
アンドレジッド「地の糧」

 「地の糧」という言葉の響きから、アンドリュー・ワイエスの絵画「クリスティーナの世界」を思い浮かべた。
 ワイエスは下半身付随の女性が、自らの力で丘を上がっていく場面を描いている。
 この絵のためにワイエスは、隣人である女性の姿、自分の家の周辺、水たまりと、すぐ側にあるありふれたもののスケッチを重ねた。
 無名の人々の生活の中に美を見出そうとするその精神は、「書を捨てよ街へ出よう」の思想に通じている。

lyrics  夕陽を呑み込んだ
 コップがルビーみたいだ
 飲み掛けの土曜の生活感を
 テーブルに置いて

 花瓶の白い花
 優しすぎて枯れたみたいだ
 本当に大事だったのに
 そろそろ変えなければ

 あ、夕陽。本当に綺麗だね

 これから先のもっと先を描いた地図はないんだろうか?
 迷いはしないだろうか
 それでいいから そのままでいいから
 本当はいらなかったものもソファも本も捨てよう
 町へ出よう

 本当は僕らの心は頭にあった
 何を間違えたのか、今じゃ文字の中
 花瓶の白い花
 いつの間にか枯れたみたいだ
 本当に大事だったなら
 そもそも買わなければ

 あ、散った。それでも綺麗だね

 ずっと叶えたかった夢が貴方を縛っていないだろうか?
 それを諦めていいと言える勇気が少しでもあったら
 本当に欲しかったものも鞄もペンも捨てよう
 町へ出よう

 貴方の欲しがった
 自分を捨ててしまった
 本当に大事だったのに
 今更思い出す

 花瓶の白い花
 枯れたことも気付かなかった
 本当に大事だったのは
 花を変える人なのに

 あ、待って。本当に行くんだね

 これから先のもっと先を描いた地図はないんだろうか?
 迷いはしないだろうか
 それでいいから そのままでいいから
 本当はいらなかったものもソファも本も捨てよう
 それでいいから

 貴方の夜をずっと照らす大きな光はあるんだろうか?
 それでも行くんだろうか
 それでいいから そのままでいいから
 全部を読み終わったあとはどうか目を開けて
 この本を捨てよう、町へ出よう

art for Yorushika's song 雪国5. 雪国
川端康成「雪国」

 「雪国」のラストシーンの燃える芝居小屋。男女は映画のフィルムを観るようにそれを見ている。エドワード・ホッパーの絵画を参考に。

lyrics  国境の長いトンネルを抜けると雪国は
 底冷えの夜の静けさを白く帯びている
 雪景の古い街並みを横目に雪国は
 貴方との春の思い出がただ蔓延っている

 僕の躊躇いが月に被さってまるで海の底ね
 ぼうと座って水面に映った僕らを見ている

 食卓と長い小節を跨いで雪国は
 花韮の花の静けさをただ嗅ぎ取っている

 貴方の涙風に舞い散ってまるで春の中ね
 ぼうと座ってスープに映った僕らを見ている

 僕らの憂いが日々日々積もってまるで雪の国ね
 どうか躊躇って 貴方も想って雪が溶けるまで
 愛が解けるまで


 国境の長いトンネルを抜けると僕たちは
 底冷えの夜の静けさを白く帯びていた

art for Yorushika's song 月に吠える6. 月に吠える
萩原朔太郎「月に吠える」

 月に吠える犬は、自分の影に怪しみ恐れて吠えるのである。「月に吠える」の序文に載せられたその一文を見た時、詩の構想が出来上がった。波止場の影からこちらを見ている何かがいる。じっと見つめている。それは創作の指を突き動かす衝動であって、魂と呼ばれる獣の姿でもある。

 絵について。詩集の序文から、彫刻家ジャコメッティの作品「犬」の姿を思い浮かべた。痩せ細った犬の影が街を徘徊する。

lyrics  路傍の月に吠える
 影一つ町を行く
 満ちることも知らないで
 夜はすっと深くまで

 気が付けば人溜まり
 この顔を眺めている
 おれの何がわかるかと
 獣の振りをする

 一切合切放り出したいの
 生きているって教えてほしいの
 月に吠えるように歌えば嗚呼、鮮やかに
 アイスピックで地球を砕いてこの悪意で満たしてみたいの月に吠えるように歌えば

 嗚呼、我が儘にお前の想うが儘に

 青白い路傍の月
 何処だろう、と人は言う
 誰にも見えていないのか
 この醜い獣

 指を差した方へ向く
 顔の無いまま動く何かがおれを見ている

 波止場のあの影で

 一切合切信じていないの
 誰もお前に期待していないの
 月に吠えるように歌えば嗚呼、鮮やかに
 硬いペンを湖月に浸して波に線を描いてみたいの
 月に吠えるように歌えば嗚呼、艶やかに
 時間の赴くままに

 皆おれをかわいそうな病人と、そう思っている!

 一切合切放り出したいの
 ま、まだ世界を犯し足りないの
 月に吠えるように歌えば、嗚呼鮮やかに
 アイスピックで頭蓋を砕いて温いスープで満たしてほしいの
 月に吠えるように歌えよ
 嗚呼、喉笛の奥に住まう獣よこの世界はお前の想うが儘に


 路傍の月に吠える

art for Yorushika's song 4517. 451
レイ・ブラッドベリ「華氏451度」

 絵について。原作小説では社会からの検閲が描かれるが、ここでは創作者自身の心の中での自己検閲を描いた。 作っては壊していく創作の時間。

lyrics  あの太陽を見てた
 深く燃えてる見れば胸の辺りが少し燃えてる

 道を行く誰かが声を上げた
 「見ろよ、変な男」と笑いながら

 指の先で触れた紙が一つ遂に燃えた

 さぁ引火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
 喜びを愛して
 さぁ昇華して 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って

 ほら、集まる人の顔が見える
 俺の蒔いた炎の意図を探してる
 見ろよ、変な奴らだ
 そんなに声を荒げて
 たかが炎一つに熱を上げてる

 燃えろ 早く 響く怒声の中で
 紙の束よ赤く盛って

 あぁ面倒くせえ さぁ燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
 悲しみも愛して
 さぁ放火して 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って

 触れて消して触れて消して
 触れて胸の窓を開けて
 早く燃えて灰を見せて
 奥の奥に燻ぶる魂に

 さぁ引火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
 妬けるほど愛して!

 さぁ放火して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして
 飽きるまで愛して
 さぁ消費して 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って 踊って

 さぁ創造して 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして 燃やして

art for Yorushika's song パドドゥ8. パドドゥ
芥川龍之介「舞踏会」

 芥川龍之介の「舞踏会」から着想を得て、想い出の中を踊る二人の人物を詩と曲に落とし込んだ。想い出の中で踊る人物は、過去の自分達に見える。雪国を経て二人の関係は終わりを迎え、列車は草原の向こうへと走っていく。
 パドドゥはバレエの用語であり、男女二人の踊りを指す。

lyrics  優しい風の音が頬撫でる
 雲間鮮やか、揺れ花菖蒲
 この場所を僕らは覚えてる
 立ちくらみ、不格好
 風に流されて腰を下ろす原
 夏草は肌に擦れるまま
 思い出の中に貴方はいる

 優しい風の音が頬撫でる
 土用の縁側、言葉足らず
 雲の下へ続く田舎道
 夏木立、不格好
 風に流されて足を運ぶまま
 あの頃指差して進むまま

 「さぁさぁもっと踊っていようよ
 腕を引かれるまま、情け無い顔のままで
 一生踊って暮らしていようよ
 もう考えないでいいよ」

 優しい風の音が頬撫でる
 夏休み、校舎の七不思議
 あの夜を僕らは覚えてる
 立ちすくみ、不格好
 風に流されて歩く長廊下
 宵闇は鼻に擦れるまま

 「さぁさぁもっと踊っていようよ
 胸を焦がせ今は泣き止んだ顔のままで
 一生踊って暮らしていようよ
 疲れたら寝ればいいよ」

 夜の校庭、たった二人だけの舞踏会
 さながら舞台裏のパ・ド・ドゥ
 僕ら芥川の小説みたいに
 今だけの想い出になろう

 「さぁさぁもっと踊っていよう
 深く息を吸うように
 一生踊って暮らしていよう

 さぁさぁもっと踊っていようよ
 いつか出会えるならふざけた笑顔のままで
 一生踊って暮らしていようよ
 そう考えたっていいよ

 さぁさぁもっと踊っていようよ」

art for Yorushika's song 又三郎9. 又三郎
宮沢賢治「風の又三郎」

 「風の又三郎」が持つ神性、あの子は風の子だったんじゃないかというその不思議な期待。現代の閉塞感を全て吹き飛ばす神様として、現代の又三郎を描く。

lyrics  水溜りに足を突っ込んで
 貴方は大きなあくびをする
 酷い嵐を呼んで欲しいんだ
 この空も吹き飛ばすほどの

 風を待っていたんだ
 何もない生活はきっと退屈過ぎるから
 風を待っていたんだ
 風を待っていたんだ

 吹けば青嵐
 言葉も飛ばしてしまえ
 誰も何も言えぬほど
 僕らを呑み込んでゆけ

 どっどど どどうど

 風を呼ぶって本当なんだね
 目を丸くした僕がそう聞いたから
 ぶっきらぼうに貴方は言った
 「何もかも思いのままだぜ」

 風を待っていたんだ
 型に合った社会は随分窮屈すぎるから
 「それじゃもっと酷い雨を!
 この気分も飛ばす風を」

 吹けば青嵐
 何もかも捨ててしまえ
 今に僕らこのままじゃ
 誰かも忘れてしまう

 青い胡桃も吹き飛ばせ
 酸っぱいかりんも吹き飛ばせ
 もっと大きく 酷く大きく
 この街を壊す風を

 吹けよ青嵐
 何もかも捨ててしまえ
 悲しみも夢も全て飛ばしてゆけ、又三郎
 行けば永い道
 言葉が貴方の風だ
 誰も何も言えぬほど
 僕らを呑み込んでゆけ

 どっどど どどうど

art for Yorushika's song 靴の花火10. 靴の花火
宮沢賢治「よだかの星」

 成仏をテーマに詩を書いた楽曲。空を高く飛び上がり、上空へ、その先の太陽へと向かう姿をよだかに重ねる。

lyrics  ねぇ ねぇ
 何か言おうにも言葉足らずだ
 空いた口が塞がらないから から

 ねぇ ねぇ
 黙りこくっても言葉要らずだ
 目って物を言うから

 忘れていくことは虫が食べ始めた結果だ
 想い出の中じゃいつも笑ってる顔なだけ

 夕暮れた色 空を飛んで
 このまま大気さえ飛び出して

 真下、次第に小さくなってくのは
 君の居た街だ

 靴の先に花が咲いた
 大きな火の花が咲いた
 心ごと残して征こう、だなんて憶う

 そんな夏が見えた

 ねぇ ねぇ
 君を知ろうにもどっちつかずだ
 きっと鼻に掛けるから

 清々することなんて何にもないけど
 今日も空が綺麗だなぁ

 僕の食べた物 全てがきっと生への対価だ
 今更な僕はヨダカにさえもなれやしない

 朝焼けた色 空を舞って
 何を願うかなんて愚問だ

 大人になって忘れていた
 君を映す目が邪魔だ

 ずっと下で花が鳴った
 大きな火の花が鳴った
 音だけでも泣いてしまう、だなんて憶う

 そんな夏を聞いた

 ねぇ ねぇ
 空を飛ぼうにも終わり知らずだ
 きっと君を探してしまうから から

 夕暮れた色 空を飛んで
 この星の今さえ抜け出して

 真下、次第に小さくて
 消えたのは君の居た街だ

 夏の空に花が咲いた
 大きな火の花が咲いた
 いつまででも泣いていたい、だなんて憶う

 そんな夏が消えた

art for Yorushika's song 老人と海11. 老人と海
アーネスト・ヘミングウェイ「老人と海」

 絵について。ロシアのアニメーション作家、アレクサンドル・ペトロフの映像作品のその数日後を想像して描いた。 敗れた労働者。英雄としての休息。少年の麦わら帽子が老人の顔を包む。

 音楽について。小説の中で、老人はアフリカの砂浜で戯れるライオンたちの姿を夢想する。
 それは若く強かった自分への懐古であり、二度と手に入らないそれへの郷愁だと解釈する。
 自分にとっての「アフリカのライオン」は何だろうか、と考えた時、出てきたのは「創作の出口」だった。
 人は想像力で物を書き、何かを作っている。想像力は無限だとよく人は言う。
 だが悲しいことに、私たちからは自身で想像しうる事柄以上のものは出てこない。想像力は所詮、自分の頭蓋骨の内側で起こる範疇しか描けない。
 誰も見たことがない、自分ですらも知らない景色を描くためにはこの頭蓋骨はあまりにも狭すぎる。
 それは絶対に辿り着くことのない出口であって、遠く海の向こう側にある「アフリカのライオン」だと、今でも思う。

lyrics  靴紐が解けてる 木漏れ日は足を舐む
 息を吸う音だけ聞こえてる
 貴方は今立ち上がる 古びた椅子の上から
 柔らかい麻の匂いがする

 遥か遠くへ まだ遠くへ
 僕らは身体も脱ぎ去って
 まだ遠くへ 雲も越えてまだ向こうへ
 風に乗って
 僕の想像力という重力の向こうへ
 まだ遠くへ まだ遠くへ
 海の方へ

 靴紐が解けてる 蛇みたいに跳ね遊ぶ
 貴方の靴が気になる
 僕らは今歩き出す 潮風は肌を舐む
 手を引かれるままの道

 さぁまだ遠くへ まだ遠くへ
 僕らはただの風になって
 まだ遠くへ 雲も越えてまだ向こうへ
 風に乗って 僕ら想像力という縛りを抜け出して
 まだ遠くへ まだ遠くへ 海の方へ

 靴紐が解けてる 僕はついにしゃがみ込む
 鳥の鳴く声だけ聞こえてる
 肩をそっと叩かれてようやく僕は気が付く
 海がもう目の先にある

 あぁまだ遠くへ まだ遠くへ
 僕らは心だけになって
 まだ遠くへ 海も越えてまだ向こうへ
 風に乗って 僕の想像力という重力の向こうへ 
 まだ遠くへ まだ遠くへ
 海の方へ

 僕らは今靴を脱ぐ さざなみは足を舐む
 貴方の眼は遠くを見る
 ライオンが戯れるアフリカの砂浜は
 海のずっと向こうにある

art for Yorushika's song さよならモルテン12. さよならモルテン
セルマ・ラーゲルレーヴ「ニルスのふしぎな旅」

 久々に見た友人が、今も変わらずに物を作っていた。あの頃から何一つ変わらない表情をしていた。どうしてか胸が詰まった。
 その時に思い出したのが幼い頃読んだ児童文学、ニルスのふしぎな旅だった。ニルスという少年がガチョウのモルテンの背に乗って旅をする話。
 モルテンを真似て、空を飛ぼうとする子供達を描いた詩を書こうと考えた。月日を経て変わらない何かを見る、それに心を揺さぶられる。自分にとっては、創作を描いた詩でもある。

 スウェーデン、ガムラスタンの街を駆ける少年たちは路地から空を見上げ、何処か遠くを夢見ている。

lyrics  借りた本を片手に持って
 川沿いの歩道を行く
 読み終わりまであと2ページ
 その先が知りたくない

 鳥に乗って旅する少年
 どこまでも北へ行く
 相棒はガチョウのモルテン
 そんな小説を読む

 さよならモルテン
 いつも僕らは飛ぼうとしていた
 腕を開いて、高く跳ねた
 何も起こらない癖に

 さよならモルテン
 君は転がりながら笑った
 土の匂いが少し香る
 胸が詰まりそうになる
 夏が来ていた

 悲しみって資産を持って
 夏前の道を行く
 読み終わりまであと2ページ
 まだ先が知りたくない

 少し伸びた背丈を追って
 いつもの丘へ駆ける
 空を飛んだガチョウみたいに
 僕らは腕を開く

 さよならモルテン
 僕らそれでも飛ぼうとしていた
 実は自分が特別じゃないとただ知りたくないだけで
 さよならモルテン
 君は転がりながら笑った
 大人になっていくことを
 少しも知らない顔で
 夏が来ていた

 また一つ背が伸びる
 いつしか遠くなる
 少しずつ離れてく
 別れた枝のよう

 褪せた本を片手に持って
 懐かしい道を行く
 あの丘まで数百歩
 誰かがそこにいる

 さよならモルテン
 君は今でも飛ぼうとしていた
 目は煌めいて、あの頃と何も変わらないままで

 さよならモルテン
 僕ら飛べないことが愛おしいとわかる気がして
 少し香る 胸が詰まりそうになる
 君が見ていた
 笑う顔も一つも褪せないままで夏が来ていた


 褪せた本を片手に持って
 川沿いの歩道を行く
 読み終わりはあと1ページ
 最後の紙を捲る
 さよなら、モルテン

art for Yorushika's song いさな13. いさな
ハーマン・メルヴィル「白鯨」

 メルヴィルの「白鯨」の姿を、美しい人物に重ねる。海の雄大さをそのまま表したような貴方の、その輪郭を一つ一つ描写していく。

lyrics  あなたの胸びれ
 窓辺を泳いで
 柔らかに溶けた
 琥珀のよう

 あなたの鼻先
 背びれと口髭
 静かなまなこは
 まるで夜の

 話して 鳴いて
 僕ら波を掻いてた
 陸に想い馳せるように

 瞼を落として 蓋して
 すぐは覚めないほど眠って
 呼吸を吹かして
 さぁ深く泳いで 泳いで
 眠りの浅いその波間を
 白く微睡みながら

 あなたのさえずり
 ソファの木漏れ日
 柔らかに揺れた
 海辺のよう

 笑って 泣いて
 僕ら波を待ってる
 じきに思い出せるように

 波間を旅して 潜って
 息も出来ないほど深くへ
 呼吸を吹かして
 さぁ深く泳いで 泳いで
 あなたの長いその尾びれを
 波に横たえながら

 話して 鳴いて
 僕ら波を掻いてた
 いつかまた会えるように

 瞼を落として 蓋して
 夢も覚めないほど眠って
 もう自分を許して
 さぁ深く泳いで 泳いで
 眠りの浅いその波間を
 白く微睡みながら

art for Yorushika's song 左右盲14. 左右盲
オスカー・ワイルド「幸福な王子」

 幼い頃から妙な生きづらさがあった。それに左右盲という名前がついていることは大人になってから知った。
 左右の区別が咄嗟につかない。判断に時間がかかる。頭にもやがかかったみたいに真っ白で、わからない瞬間がある。
 それを取り繕ってわかったような顔で左右を当てはめて、会話を進める癖が自分にはあった。
 はっきりと区別しないまま、なんとなくで当てはめる左右。
 それは目の前の誰かが居なくなって、初めて問題として浮き彫りになる。
 あの垂れていた右眉は実は左眉だったのかもしれない。頬をついていた右手は、実は左手だったのかもしれない。
 もういない相手に対してその左右を想像する。そういう、ごく私的な詩を書こうと思った。

 絵について。平皿へと宝石を運ぶ青い燕。二人の前にはマグカップが置かれている。
 デンマークの室内画家、ヴィルヘルム・ハマスホイの描いた部屋を参考にしている。

lyrics  君の右手は頬を突いている
 僕は左手に温いマグカップ
 君の右眉は少し垂れている
 朝がこんなにも降った

 一つでいい
 散らぬ牡丹の一つでいい
 君の胸を打て
 心を亡れるほどの幸福を
 一つでいいんだ
 右も左もわからぬほどに手探りの夜の中を
 一人行くその静けさを
 その一つを教えられたなら

 君の左眉は少し垂れている
 上手く思い出せない
 僕にはわからないみたい
 君の右手にはいつか買った小説
 あれ、それって左手だっけ

 一つでいい
 夜の日差しの一つでいい
 君の胸を打つ、心を覗けるほどの感傷を
 一つでいいんだ
 夏に舞う雹のその中も手探りで行けることを
 君の目は閉じぬことを

 僕の身体から心を少しずつ剥がして
 君に渡して その全部をあげるから
 剣の柄からルビーを この瞳からサファイアを
 鉛の心臓はただ傍に置いて

 一つでいい
 散らぬ牡丹の一つでいい
 君の胸を打て
 涙も忘れるほどの幸福を
 少しでいいんだ
 今日の小雨が止むための太陽を

 少しでいい
 君の世界に少しでいい僕の靴跡を
 わかるだろうか、君の幸福は
 一つじゃないんだ
 右も左もわからぬほどに手探りの夜の中を
 君が行く長いこれからを
 僕だけは笑わぬことを
 その一つを教えられたなら

 何を食べても味がしないんだ
 身体が消えてしまったようだ
 貴方の心と 私の心が
 ずっと一つだと思ってたんだ

art for Yorushika's song アルジャーノン15. アルジャーノン
ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を

 アルジャーノンは小説内に出てくるネズミで、迷路を脱出するタイムを競う実験をさせられている。
 主人公のチャーリーはそれを上から眺めながら、妙な親近感を覚えている。
 アルジャーノンを幼い頃の自分、創作を始めたばかりの壁の向こうに出口があると信じて止まらない自分に置き換えて、詩を書いた。

 絵について。100年前の白黒写真に写った人物たちを参考に描いている。
 人間が自らの実人生を生きていた時代への憧れと祝福。

lyrics  貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう
 貴方はどうして僕に目を描いたんだ
 空より大きく 雲を流す風を呑み込んで
 僕のまなこはまた夢を見ていた

 裸足のままで

 貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
 少しずつ膨らむパンを眺めるように
 貴方はゆっくりと走っていく
 長い迷路の先も恐れないままで

 貴方はどうして僕に名前をくれたんでしょう
 貴方はどうして僕に手を作ったんだ
 海より大きく 砂を流す波も呑み込んで
 小さな両手はまだ遠くを見てた

 あくびを一つ

 僕らはゆっくりと眠っていく
 とても長く 頭の真ん中に育っていく大きな木の
 根本をゆっくりと歩いていく
 長い迷路の先を恐れないように

 いつかとても追いつけない人に出会うのだろうか
 いつかとても越えられない壁に竦むのだろうか
 いつか貴方もそれを諦めてしまうのだろうか
 ゆっくりと変わっていく
 ゆっくりと変わっていく
 ゆっくりと変わっていく

 僕らはゆっくりと忘れていく とても小さく
 少しずつ崩れる塔を眺めるように
 僕らはゆっくりと眠っていく
 ゆっくりと眠っていく

 貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
 あの木の真ん中に育っていく木陰のように
 貴方はゆっくりと走っていく
 長い迷路の先も恐れないままで
 確かに迷いながら

第2章:踊る動物

 夏目漱石「夢十夜」より章題を借りて。
 踊る動物達をテーマに、人、蛙、蝙蝠、鹿、梟、兎、カナリア、羽虫、カメレオン、猫を描く。

 音楽について。ループするメロディをテーマに。
 小節単位、フレーズ単位、もしくは一音単位で繰り返されていく。
 人間の手によって演奏された音だけで構成されている。
 第三夜、第五夜はバンドによる演奏。その他は作曲者のn-buna一人による、擬似的ホームオーケストラ。
 アップライトピアノは調律から日が経ったものを使用。少しルーズで懐かしい響きがした。

art for Yorushika's song 第一夜1. 第一夜
 踊りながら、百合に変化していく女性。太陽が昇り沈んでいく。ランプが灯り月が昇る。
 「気づいたら百年経っていた。」

lyrics  貴方だけを憶えている
 雲の影が流れて往く
 言葉だけが溢れている
 想い出は夏風、揺られながら

 朝目が覚めて歯を磨く
 散歩の前に朝ご飯
 窓の向こうにふくれ雲
 それを手帳に書き留めて
 歌う木立を眺めます
 通りすがりの風が運んだ
 花の香りに少しだけ春かと思いました

 貴方だけを憶えている
 雲の影が流れて往く
 言葉だけが溢れている
 想い出は夏風、揺られながら

 昼は何処かで夢うつつ
 ふらり立ち寄る商店街
 氷菓を一つ買って行く
 頬張る貴方が浮かびます
 想い出ばかり描きます
 この詩に込めた表情は
 誰にもわからなくていい
 いつか会いに向かいます

 貴方だけを憶えている
 雲の影が流れて往く
 言葉だけが溢れている
 想い出は夏風、揺られながら

 夜に花火を観ています
 いつかみたいな人混みで
 名前も知らず呼んでいた
 白い花を一輪持って
 隣町から帰ります
 列車の窓を少し開いて
 夜がひとひら頬撫でて
 風揺れる、髪が靡く

 貴方だけを憶えている
 雲の影が流れて往く
 言葉だけが溢れている
 想い出は夏風、揺られながら
 この歌は夏風、揺られながら

 朝目が覚めて歯を磨く
 散歩の前に朝ご飯
 丘の向こうにふくれ雲
 ふいに何かに気付きます
 心が酷く震えます
 白百合香る道を走って
 やっと貴方に出逢えた
 そんな夢を見ました

 貴方は僕に笑います
 ずっと待っていましたと

art for Yorushika's song 第二夜2. 第二夜
 月光の下の蛙。

art for Yorushika's song 第三夜3. 第三夜
 黒いインクが蝙蝠のように踊る。
 写真家アーヴィング・ペンによって撮られたマイルス・デイヴィスを参考に。
 音楽はモードジャズをテーマに。教会旋法のうちのドリアンモード。
 バンド演奏での録音。演奏はセッション的な一発録りとなった。

art for Yorushika's song 第四夜4. 第四夜
 眠っている鹿に寄り添う少女。
 音楽は、この絵を心臓の鼓動を聞き取ろうとしている少女と捉えて書いた。
 心臓の音をピアノで表現する。その一音にエフェクトがかかり、徐々に空間を広がっていく。
 指笛を使って梟の遠鳴きを真似する。

art for Yorushika's song 第五夜5. 第五夜
 ワルツのリズムから派生したピアノ。
 夢の中で踊り出す男。その体から梟が飛び立つ。
 スペインの画家ゴヤの版画を参考に。

art for Yorushika's song 第六夜6. 第六夜
 赤ん坊を抱いた感触。様々な人からの贈り物の沢山の毛布。

art for Yorushika's song 第七夜7. 第七夜
 インスピレーションを運ぶカナリア。
 バッハを再解釈したピアニスト、グレングールドのポーズを参考にし、少年としての彼の姿を思い浮かべ描いた。
 グレングールドは歌いながらピアノを弾いたことで知られる。
 楽曲はアイデアが降りてくる鼻歌のメモから始まる。一楽器ずつ和音が増えていくループミュージック。
 クラシックの持つニュアンスを多重録音で現代的に再構築する。

art for Yorushika's song 第八夜8. 第八夜
 蝗害のように戦争が始まる。
 パリの眼と呼ばれた写真家、ブラッサイの写真を参考に、多重露光で絵で描く。
 音楽について。戦争の足音がタンバリンのリズムとして聞こえ始める。
 西洋音楽に影響を受け、取り入れる日本人という自意識。その自分をヨーロッパの街を行く羽虫と重ねる想像をする。
 西洋楽器のマンドリンが日本音階(都節音階)を奏でている。

art for Yorushika's song 第九夜9. 第九夜
 ホテル、ネオン、歓楽街。
 ネオンの色をピアノ、民族太鼓、アナログシンセサイザーJUNO-60で表現。

art for Yorushika's song 第十夜10. 第十夜
 画家フラシス・ベーコンのアトリエをモデルに。画家のいなくなったアトリエで猫は泣き続ける。
 音楽について。コロコロと気分が変わる猫っぽく自由なイメージで、行き先を決めないフリーのピアノ演奏。
 初めは悲しげに。主人はもういない。
 時間が経つにつれ、段々と楽しくなる。一人の部屋を謳歌する。
 そうしてまた、寂しくなる。

Me & Yorushika tbd